Surgical Treatments

頸椎の治療について

頚椎と脊髄(頸髄)の病気 ー 脊髄と神経の圧迫患

病気の本態

腕の痛み、しびれ感、手と腕の動きの悪さ、脚のガクガク感と不安定、姿勢の変化、くびや肩の痛みなどがみられます。徐々に進むのであまり意識されないこともあります。

症状

腕の痛み、しびれ感、手と腕の動きの悪さ、脚のガクガク感と不安定、姿勢の変化、くびや肩の痛みなどがみられます。徐々に進むのであまり意識されないこともあります。

病態のメカニズム

頚椎が狭く、中にある脊髄が圧迫されていると、3つ心配なことがあります

一つは脊髄が圧迫されて血液循環が悪くなると、脊髄の中にある手や腕を動かす神経細胞が徐々に減っていきます。半分以下に減ると、症状も進み、回復も難しくなります。
二つ目は、脊髄が圧迫されていて、余裕がないと、首の曲げ伸ばしによって脊髄が損傷されることです。転倒や交通事故などで頸がうしろに伸展したときに麻痺がおこることがありますので、放置するのはリスクがあります。

三つ目は、姿勢の変化で、くびをまっすぐに前に伸ばす体勢をとるようになることです。正常では頸椎は前向きに凸のカーブ(前彎)をとっていますが、少しでも脊柱管を広く使おうと無意識にまっすぐ前に突き出した姿勢をとるようになります。頭の重心が前に移動するので、首の後ろの筋肉の負担が増えて、頸や肩の筋肉が緊張し、痛み、首こり、肩こりになります。
これらの症状は、診察ですぐにわかりますし、病態はレントゲン、MRI検査で確認できます。

治療

画像を検討し、手術でない治療、姿勢の矯正の指導などで改善する状態ならまず保存的に様子をみます。
しかし脊髄がある程度以上に圧迫されているなら、これを解放してあげることが第一の選択です。そのために脊柱管を拡大する手術をします。

筋肉と骨をすべてのこす筋層構築的な脊柱管拡大

くびの筋⾁のはたらきを全部残して、脊柱管の中⾝を広げる⼿術を⾏っています。 筋⾁と⾻格の働きは、頭の⽀えのためだけでなく、くびのしなやかな動きのために⽋かせません。⽬で動くものを追いかけて視るときや、運動、スポーツのときなどくびの素早い、正確な動きが ⽋かせません。

筋⾁を頸椎の⾻からはがさずに全て残し、頚椎の柔軟な動きをのこす⼿術(筋層構築的棘突起椎⼸形成術)を考案して、2003年より2400人に施⾏しています。シンフォニー病院だけでも、昨年1年間に186人に施行しました。脊髄、神経の圧迫をとるので、動きや痛みが改善します。くびの姿勢が改善し、つらかったくびや背中の痛みがとれることが大多数です。 頭痛や腰痛も改善することも経験されます。

くびのしなやかな動き、柔軟性をたもつので、半年もすると「違和感がない」と⾔われる⽅がほとんどです。 病気の期間の⻑さ、脊髄損傷の程度などによっても回復の経過は異なりますので、外来を受診してよく相談してください。

手術合併症

⼿術の⼯程をすべての段階について検討し、万一、エラーがあっても脊髄や神経を痛めることがないように⼯夫してあります。本術式で2003年より2400人のかたに⼿術をおこなってきましたが、⼿術操作 ⾃体による脊髄や神経の損傷の合併症はありません。 しかし10⼈に1⼈くらいの割合で、⼿術後に腕や⼿の知覚の過敏、しびれ感が一過性に出現します。これは数⽇で消えます。 また100⼈に⼀⼈くらいの頻度で、肩の筋⼒が落ちることがあります。⼿術後2−3⽇してから現れることが多く、回復に2−3週間から時には2−3か⽉かかることもありますが、治ります。 ⻑い間、循環障害に陥っていた脊髄に、急速に⾎のめぐりが回復することによって起きるものと考えています。

脊椎脊髄外来にご相談ください

手術解説

幾重にもかさなる頸の筋肉:いずれも姿勢の保持と精確な頭頸部の動きのために欠かせませ
ん。
第1層 僧帽筋、 第2層 頭半棘筋、頭板状筋、 第3層 頚半棘筋、多裂筋

くびが前方に伸びると、後ろ側の筋肉の負担が大きくなり、首の痛み、肩こりなどをきたします
a)(伸展位) 頸椎の前彎が保たれた状態、うしろの筋肉に緊張がない状態。
b)(前屈位)頸椎の前屈勢になると重力に逆らって頭部を支えるために後頚筋群は緊張
します。
首や肩の痛みに姿勢の習慣が関与します。

くびの姿勢は、背骨全体の姿勢ならびに骨盤の角度に影響します。頭部の重心(十字線を
円で囲った印)は耳の直前にあります。
くびの脊柱管が狭いと、少しでも広く使うために頸椎がまっすぐに前に伸びた姿勢をとるようになり
ます。頭部の重心は前方にシフトし(右図)、頸部のうしろの筋の張力が高まります。加齢や
姿勢変化で、猫背姿勢をとるようになると胸椎の後彎が強まり、さらに、上半身の重心は前方に
シフトします。

立位姿勢と二足歩行のためには、重心のバランスは寛骨臼・大腿骨頭の垂線軸上にあることが
必要です。上半身の重心が前方に移動しても、バランスを維持するためには、腰椎の後ろへのカー
ブを強めるか、骨盤を後ろに回す必要が生じます(骨盤、下矢印)。このときに仙椎と腸骨の
結合である仙腸関節にもストレスがかかり腰痛の原因になります。

靭帯の肥厚、骨の変形などでによって脊柱管が狭窄され脊髄圧迫があると、脊柱管の有効径を
確保するために、頸椎の前彎は消失し直線的アライメントになる。頭の重心位置の前方シフト、
後頸筋の緊張増大に伴って頸部の痛みがおこる。影響が全脊椎、仙椎骨盤アライメントまで及
べば、仙腸関節由来の腰痛をおこしうる。

我々の手術:後方からのアプローチと後方筋群。すべての筋肉の骨への付着を保存し、脊柱管を拡大して、圧迫されている脊髄をすくいだします (筋層構築的棘突起椎弓形成術)

 

筋の付着をすべて残して、棘突起ならびに椎⼸を分 割、外側に溝を掘削、左右の椎⼸をもちあげて、あいだにハイドロキシアパタイト(自然の骨がつくるカルシウムと同じ、リン酸カルシウムの水酸化体)製インプラント を挿⼊固定する。 そのうえに第三層の筋が付着したままの棘突起の板を固定する。

筋層構築的棘突起椎弓形成の最終段階。首の後ろの筋肉の筋膜を中央で丈夫に再建することが重要です。
全ての筋と骨の結合が残ったまま、脊柱管が拡大されています。

 

手術によって僧帽筋の正中の縫合が弱くなり、肩甲骨に対する牽引力が失われると大小菱形筋、肩甲拳筋などの肩甲骨内側に付着する筋肉の負荷がたかまり、筋肉痛をきたします。
丈夫に縫合して再建します。

⾻の作るカルシウムとおなじ、リン酸カルシウムの水酸化体(ハイドロキシアパタイト)からなる⼈⼯の棘突起

図10 術後6-8か月で、骨とカルシウムの一体化がおきます。溝は新しく形成された骨で埋まり、カルシウムのまわりを囲い込みような骨の形成により癒合が完成します。
すべての筋肉の骨との付着は保たれています。

症例

70歳男性 頸椎症性脊髄症

70歳男性 頸椎症性脊髄症、首の痛みと、手の動きが不自由 (巧緻運動障害)であることで受診。MRIでは 脊髄の圧迫が確認されます

術後のMRI 脊柱管の狭窄、脊髄の圧迫は解消し、断面も回復、手の動きも回復しています。

術後6か月のCT カルシウムをとりまく骨と、椎弓を曲げておこした箇所(矢印)の癒合がみられます

 

術後2年のレントゲン写真、前屈、正中、後屈。柔軟なくびの動き、しなりが残っています。首の痛みも消失しています

左腕の痛みを訴えて受診されました。MRIでは頚椎2,3,4、5に後縦靭帯骨化があり、脊髄が圧迫され、右の断面でみるとおり扁平に変形しています。

術後2年のレントゲン写真、前屈、正中、後屈。柔軟なくびの動き、しなりが残っています。首の痛みも消失しています

術前と術後のCT: 脊柱管が広くなったことがわかります。